THE CHILDREN OF GODS.
―しろくろ。―
13/策略
頭が痛い。鈍器で殴られたようだった。
とろとろと瞼を上げると、すっかり暗くなった自分の部屋の天井が見えた。月明かりが差し込んでいる。そこに男の影。理解する。
「……俺はどうなったんだ、『閻魔』」
「強制的な記憶の復活による意識不明、倒れたお前を俺が運んだ」
『閻魔大魔王』は苦々しく告げると、ため息をついた。
「あいつも無茶なことをする」
「……あいつ、何者なんだよ」
体を動かす気力も無く、亮はベッドに寝転んだまま尋ねた。しばらくの沈黙の後、返事が返ってくる。
「何処から話したらいいか――俺がお前を尾行けるようになった事からか」
「上神田の指図だろ?」
「それ以前に俺はあいつ、黒蓮に雇われていたんだ」
それは初耳だ。ということはつまり、「閻魔」が上神田に雇われていたのはあの黒蓮とかいう男の指示だったとでも言うのだろうか。何のために?
「お前――もしかして」
「ああ……お前を見張るためだ。一之瀬亮」
月の光は男の頬を打ち、その光景を印象付ける。モノクロだ。重い。
「俺は黒蓮からの指示でお前をつけていた。同時に『事件』の要がお前だという噂を流し、前から多少交流のあった上神田に雇われた。あの家には上神田月代がいる」
「ちょっと待て……なんでそこで『事件』の事が出てくる?」
「あの子は精神的に不安定だ。付け入る隙は多い。そしていい具合にお前と月代が知り合い、お前が上神田の敷地に入る。そこで月代の能力が暴走し、お前の守護獣の具現を促した。偶然に偶然が重なったシナリオだ」
言葉を失う。何がなんだかわからない。
「何――」
「守護獣にも神がいることを知っているか」
突拍子も無い。「閻魔」は続ける。
「黒蓮が俺に言ったんだ、『守護獣にも神がいることを知っているか?』。それは神獣と呼ばれ、他の守護獣と違い生長する。そして有と無を司る」
有と、無。
「この『事件』は――お前を、そしてお前の守護獣を陥れるために黒蓮が仕組んだものだ」
頭が痛い。がんがんする。何を言っている、何を?事件――自分と白楼を探すためだけに人の心の負担をかけ、あまつさえこちらにも危害をくわえてきた。どうして白楼を?どうして――あいつは、あいつは?
「……『閻魔』」
「何だ」
「あいつは何なんだ。黒蓮て――」
「それは俺も知らない。世界各国の戸籍のデータベースにアクセスしてみたが、あいつの情報はいっさいない」
亮は上体を起こす。バランスを崩して、ずるりとベッドから落ちた。慌てた様子で「閻魔」が手を伸ばす。
「無理するな!今のお前には守護獣がいない、身体も精神も耐え切れないぞ!?」
「シロが――……呼んでる、俺を」
息が苦しい。どうしようもない。けれどこんなの――まだ、大丈夫だ。
「『閻魔』、俺は守護獣の世界に行く」
「な、」
「今ならやれる気がする。俺は『神子』としてシロから与えられているだけじゃ嫌なんだ」
この力はそのために。やれる。大丈夫だ。きっと白楼は自分よりつらい。それにこのまま消えるだけなんて絶対いやだ。だから会いに行く。きっと連れもどす。
握りしめた亮の右手が光る。つられて左手も。そしてそれは身体中に侵食する。つきあかり、その中で光る無。意識を辿る。いつもどうやって会話していた?世界と意識を繋いでだ。それを辿る。
「あいつは俺の――ダチなんだよ!!!」
迸る閃光。それが消えたときには、少年の体は力を失いその場にひれ伏した。それを見守った「閻魔大魔王」は、ただ少年の帰りを待つしかなかった。
黒蓮が完全なる悪者扱い!でも根はいいやつならいい。ただちょっと性格悪いだけ(結局悪いんじゃない
ちょっとファンタジックすぎましたね…
【20070605 ブログ「黄昏は雨の日に」より】