THE CHILDREN OF GODS.
―しろくろ。―



 12/遭遇



 天を闇が、覆っていた。
 亮は夕食後すぐ月代の家を出た。当主が戻ってきたら厄介だという理由だ。月代は亮が見えなくなるまで頭を下げたままだった。振り返らなければ良かった、と少し後悔する。
「……で、お前はいつ消えるんだ?シロ」
「そう言うな。戻り方が分からん」
 アホか、と言い掛けて、やめた。過剰な"力"の使いすぎは守護獣を呼び出す。使ったのは亮だ。明らかに自分の過失である。大体白楼には記憶がない。亮が一代目なのかもしれないが――戻り方が判らないのも、どうしようもない事だ。見せようと思わなければ常人には白楼の姿は見えない。問題はないだろう。
「でもどうも変だよな、俺が『事件』と関係あるとか、お前がヒト型で具現するとか」
「亮」
「お前本当に何も覚えてないのか?」
 すい、と顔を上げる。そこは闇。居る筈の白が、無い。
「……シロ?」
「よっぽど僕に会いたくなかったのかな、"シロ"は」
 突然の声に、亮は勢いよくそちらを振り向いた。そこは闇。無いはずの漆黒が、存在する。
 何よりその声――亮の守護獣にそっくりな、低めに響く中性的な声。
「あんた……誰だ?」
 夜から染み出したような輝く黒髪をゆすりながら、人外なほどによく整った顔がにこりと笑う。白楼そっくりの顔。
(シロだ)
 亮は直感する。『神子』としての勘だ。外れるはずが無い。
(でも、シロじゃない)
 警戒して身構える。それにもかまわず、その男――これも勘だ――は亮のほうに歩み寄る。美しい微笑。闇だ。
「君が白の宿主かぁ……全く、何処に行ったのかと思えば守護獣なんかに成り下がっちゃって。所詮相容れないものなのにね」
「どういう……ことだ?」
 男はくすくす笑う。す、と手をのばして、亮の視界をさえぎった。
「僕の名前は黒蓮(コクレン)。さぁ、白が消した君の記憶だよ。たんと召し上がれ」
 意識はそこで途絶えた。


 異常な亮の身体能力。そう、あまりに異常だったのだ。からかわれ蔑まれそうやって育ってきた。あの瞬間まで。
 亮は虐められる側の子供だった。夕日の輝く公園。今日も囲まれて叫ばれるどなられる。
 その日はそれに痛みが加わった。痛い。やめて。悪くないぼくはなにもわるくないなにも――。
 突然だった。目の前の子供が消えた。次々に消えていく子供。同時に記憶も。亮に関わる全ての人の、亮に関わる悪い感情や軽蔑の念も。制御できない力の限りに。望まずとも望んだこととして。

 亮は人を殺したのだ。








友達を欲しがらない理由にこれ。記憶は無くとも本能的に悟っていたんだと。
【20070211 ブログ「黄昏は雨の日に」より】