THE CHILDREN OF GODS.
―しろくろ。―



 11/異形



「さっきは……すみませんでした、本当に」
 小さな肩をますます窄めて、月代は頭を垂れた。亮はなんともいえない気持ちでそれを眺めていた。二匹の守護獣は傍観している。氷鬼が月代を見亮を見、そしてその深い青の瞳を伏せた。
「や、お前は結局"事件"に巻き込まれてただけだし。仕方なかったんだって」
「いえ、巻き込まれたこと自体も僕の責任ですし。それに自我はまだ残っていたのに、制御しきれなかったのも僕の未熟さゆえです」
 それ以上言葉を紡がない月代を見て、亮は再び言葉に詰まる。少し考えて、話題を変える。
「そういえば戦ってる時誰も来なかったけど、どうしたんだろうな」
「恐らく冴斗が結界を張ったんだろう。あいつの守護獣『結羅』の能力は『拘束』だからな」
 冴斗は今この場にいない。あまりにも強力で特殊な"力"の気を浴びすぎたせいで、気を失ってしまった。そこはやっぱり子供だからである事も多少関係しているのだろう。
 答えた氷鬼もまた、そこで黙る。見えない重石が二人と一匹――白楼はくつろいでいる――の肩にのしかかる。しばらくしてまた、氷鬼が顔を上げた。
「白楼……といったな。白いの」
「ああ」
 不意に話をふられ、白楼は耳を少し動かした。体制を立て直し、あぐらをかく。
「お前、元はなんだ」
「狼だが」
「なぜヒト型化できている?」
 全ての目が、氷鬼に向いた。亮は月代を見、氷鬼を見、白楼を見た。目がかち合う。
「どういう……ことだ?氷鬼」
「普通守護獣はその名のとおり『獣』だということですよ」
 月代が答える。先ほどとは違った緊張が、全員に走る。
「守護獣の『世界』でも、ましてや具現化時のヒト型化なぞ、三鬼が一人氷鬼でも難しいことを、何故貴殿はそうやすやすとやってのけるのだ?」
「でも俺は白楼の獣の姿なんて見たことないぞ」
 亮が口をはさむ。今度は全ての目が亮に向いた。一瞬固まる。
「獣の姿を見たことがない……?」
 月代が呟く。月代は意識内でも具現時でも氷鬼を獣の姿で見ているのだろう。現に氷鬼は見てすぐわかる、奇形の狐だ。だが白楼はどうだろう、獣らしいところなんて、その耳だけ。
「さっきの力、獣でなくヒト型……」
 氷鬼が白楼を見た。当人は気楽な様子である。彼にとって自分の正体などには興味がないらしい。記憶がないのならそこのところは追求するべきだと思うのに、人でないものは分からない。
「私が思うに、白楼お前は新種の守護獣か、突然変異……もしくは」
 狐は言葉を切った。少し唸る。
「いや、そんなわけがない。こっちでも少し調べておこう」
 言うが早いが、氷鬼は消えうせた。一瞬の沈黙。後に、足音。
「月代様、お客様、夕食の仕度が出来上がりました」
「あ、はい。運んでください」
 再び足音。今度は数人だ。月代が少し亮を見た。
「先輩、あの……」
「もう気にすんな。お前が望んで俺が友達になって、だから喧嘩した。そういうことだろ」
 寂しかったのだ、と。
 月代は少し考えて、苦笑した。
「……はい」









【20070211 ブログ「黄昏は雨の日に」より】