THE CHILDREN OF GODS.
―しろくろ。―
10/具現
鈍い音が、木霊した。
亮は瞼を持ち上げた。氷塊は目の前から消えている。冷気もそれほど感じない。月代の驚く顔が見えた。そしてなにより、隣にある気配。
「神子としての自覚が無いぞ、亮。力の使い方を知らんな」
そう言って、人型をした白い守護獣は首をごきりと鳴らした。白い獣型の耳が風を感じて動く。"勢い"を消したせいで、氷塊は地べたに転がっていた。先ほどの音も、それらが落ちたせいだろう。
「――どうすればよいのだ?友人兼我が主」
「――シロ……!!?」
自分の意識外で初めてみる白楼の姿は、そこだけ世界が浮いているようだった。空気が静かだ。人でないコトを思い出させられる。
過ぎた力を使えば、守護獣が出てくるのは当然の事だ。月代の"氷鬼"の"力"は、それだけ亮には重かったのだろう。
「……ヒト型、だって……!!?」
冴斗が押し出した声に、白楼は振り返る。びく、と少年の体が震えた。
「具現化時にヒト型になるなんて、そこらの『神子』じゃ出来ない……!!ボクだって成し得ないのに……アンタ、一体……」
亮は首をすくめて見せた。それから白楼を見上げて、言う。
「お前が出てきたってことは、俺の"意思"は聴いてたんだろ」
「無論」
「じゃあ、そのまんまだ」
その端整な顔を面白そうに歪めて、白楼は頷いた。服の裾が翻る。長く白い髪がなびいた。
亮は月代に視線を戻した。再び氷塊が浮いている。冷気も戻りつつある。もはや、それは月代の意思ではなかった。裂けた瞳が不穏に輝く。
絶対零度。冷気が二人を襲う。冴斗を下がらせてから、二人は同時に地を蹴った。光を受けてきらめくそれ。亮の頬を掠めた。風を切り、飛ぶ。白楼が突き出した腕に当たった氷が砕け、消える。跳ねて、近付く。伸ばす、手のひら。
「―――――――ッッ!!!!!」
月代の目が限界まで見開かれた。裂けた瞳が元に戻っていく。
その目を見つめながら、亮は月代の頭の上に手を置いていた。頬を血が伝う。冷気が消えていく。
「そんなに悲しむな」
ぽんぽん、と頭を叩いて、亮は微笑んだ。
「俺達、友達なんだろ」
その両目から、ひどく静かに、雫が溢れた。それを皮切りに、月代は俯いて、ただ泣いた。
「さすがは『氷鬼』の子かぁ……『三鬼』なんて呼ばれちゃってるからには、使えるかと思ってたけど。まだまだだね」
"影"は笑う。漆黒の髪をなびかせて。"影"に付き添う大男はただ静かにそれを見ていた。
「嗚呼……会いたかったよ、"シロ"……」
男とともに、"影"は掻き消えた。
【20070211 ブログ「黄昏は雨の日に」より】