THE CHILDREN OF GODS.
―しろくろ。―



 7/事件



「こっちは従兄弟の上神田冴斗くんです」
「はじめまして、お兄さんっ」
 にこ、と天使のように笑った少年――冴斗に、亮は曖昧に返事を返す。目の前の子供が、先ほどまで鬼のような眼光を亮に向けていたなんて、全く考えられない。
 どうやらこの冴斗という少年は、ブラコンな上にぶりっ子らしい。月代は冴斗の黒い一面を知らないみたいだし――。
「それで先輩が伯父上に調べられているのはご存知ですか?」
「ああ……うん…………え?」
 思わず肯定してしまってから、亮は驚いて冴斗から月代へと視線を移す。彼はあきれたような表情をして大きくため息をついた。
「やっぱり『閻魔』は何か考えがあるんでしょうかね」
「え、あー……ってか、その伯父上とやらは何で俺のこと調べてんだよ」
 月代の話というのはつまりそれだったという事だ。お礼といえばお礼なのかもしれないが、やはり家まで呼ぶのは少しおかしい気がしてはいた。そうか、こういうことだったのか。
 真剣な目で此方をみつめてくる月代の視線を受け止め、亮もまたにらむように見つめ返す。
「事件、知ってますか」
「『閻魔』から聴いた。けどそれが『神子』がらみっぽいこと以外は見当もついてない」
 静かに滑り出す言葉たち、秘密の会話。聴いているのは冴斗だけかもしれないし、他にもいるのかもしれない。月代が息を詰める。
「……最近何者かによって、『神子』の能力が暴走させられているとの情報がこちらに入っているのです。もとよりそう強くも無い守護獣の力が膨張し、それに引張り上げられるように守護獣憑きの能力も強制的に強くなるといった様子で……早い処置を行わないと、強い負担により『神子』に自我が無くなってしまう、それが『事件』です」
 亮は目を見張った。もう一度しっかりと、月代の顔を見つめる。その表情は静かで本気だ。
「……んな……ことなんかありかよ……ッ!!?」
 知っている。それは身をもって体験した。長島はきっと、その「事件」の被害者というやつか。
 いや、しかしそんなコトができるものなどいるのだろうか。そんな能力を持つものがいるのだろうか。だとしたら何故、そんなコトを――。
「……で、俺とそれとの関係、は……?」
「それが……」
 月代は隣に座る冴斗の頭をなでた。つまらなくなってしまったらしい子供は、その手にされるようにされている。
「僕もよくわかっていないんですが、伯父上――上神田家当主、並びに当主補佐である僕の父上に、何者かが関わっているらしいんです。一之瀬亮が『事件』のかぎを握っている、と。父上、伯父上とも氷鬼の一族ならば神子全てを統括する義務があると思っているらしくて、この凶行を止めさせようと必死なんです」
「……は?」
 「事件」の事も知らなかった亮に、一体何を握れと言うのだ。その何者とやらもかなりいい加減だ。
「『閻魔』はうちで雇いました。先輩の身の回りを調べさせるべく」
「……お前、こんな事俺に話していいのか?」
 見聞屋まで雇って調べているコトを、標的本人に流すなど、ばれたらとんでもない事だ。月代はにこと笑う。
「仮にも氷鬼が憑いてますし、それにこれは『お礼』ですから。ね、冴斗君」
「ねー」
 状況のわかっていない声に、二人は笑った。例え内容はかなり危険でも、楽しい時間といえばそうだった。









【20060621 ブログ「黄昏は雨の日に」より】