THE CHILDREN OF GODS.
―しろくろ。―
2/神子
『亮……注意力が足りない』
眠りにおちるとすぐ、待ち構えていた彼は眉間にしわを刻みながら言った。
腰まである長く白い髪に、つり気味の目の色はグレイ。襟の高い服の上に、着物を羽織った彼の頭の両側からは、何故か白い獣ミミ。
亮はとりあえず、そのだだっ広く白い空間の中にあぐらをかく。
「ほっとけ。眠かったんだから仕方ないだろ。シロだってもっと早く言ってくれりゃ良かったのによ」
『……。』
彼の名は白楼(ハクロウ)というらしい。「シロ」は、亮がただ好きでそう呼んでいるだけだ。
白楼は、亮の守護獣だ。
「……俺お前以外の守護獣初めて見た。ヒト型じゃなかったぞ」
『それは俺が特殊だからだろう。……というか、何故か獣型には慣れていない』
白楼の本来の姿は、狼だそうだ。しかしその姿は亮すら見たことがなく、つまり、誰も見たことが無い。
「守護獣のくせに記憶喪失なんてバカか」
『守護獣だって記憶喪失くらいする……と言いたい所だが、忘れてるからわからん』
「神子」のことを、そして守護獣のことを、亮が白楼から教わったのは12の時だ。それを「覚醒」ということも。
そして、亮が「神子」だということも。
「神子」は、守護獣が憑いている人間の総称だ。守護獣は、その人間が生まれた時からその人間の中に居座り、時が来れば目覚める。目覚めずに人間が死んでしまうこともあるが、そうすれば守護獣はまた次の人間に憑くのだという。
「前憑いてた人間のこととかもわかんないか?」
『人間に憑いた事があるかすらわからん。俺が覚えているのは、守護獣としての最低限の知識だけだ』
ふんぞり返って言う白楼だが、そんな事自慢にもなんにもならない。亮はため息をついた。
「……とりあえず、今日来たあいつ…『閻魔大魔王』? どう思う」
『彼の能力は見聞だと、彼自身が言っていたな。影から影を渡り歩く能力だろう。影が出来ない所に入ってしまえば、「視」ることや「聴」くことが困難になる』
「ふーん……あ、長島は?」
『会話が出来ていない、つまり「覚醒」が来ていないんだろう。「覚醒」が来ていない「神子」の先走った能力など、ちょっとおかしな人間、くらいなものだ』
それより、と白楼は耳を揺らして髪をかき上げた。顔立ちも整っているし、女なら綺麗だろうが、男だからときめくものも何も無い。
『亮、そろそろ眠った方がいい。体力が続かないぞ』
「ハイハイ。お休み」
最近はほぼ毎晩白楼と話せるようになったものの、最初の頃はひどいものだった。一晩話しただけで一週間目が覚めなったり、しょっちゅう倒れては保健室送りだったりしたものだ。
亮は立ち上がると、その白い空間に溶けるように、次第に消えていった。
『そろそろ、具現化も出来るようになれよ』
――ほいほい。
遠くからそう聞こえたあと、辺りはすっと暗くなる。真剣みの無い亮の声にため息をついてから、白楼もまた消えた。
「……ねぇ、キミ」
「ああ!!?」
喧嘩に負けたその機嫌の悪さのまま、声をかけてきた相手に睨みをきかせる。だが相手の様子に気がぬけて、ぽかんとその男をみた。
黒く長い、腰まである髪をなびかせながら、ひどく美しい顔を笑みの形にして、男は言った。
「力、欲しくない?」
長島にはそれが、喧嘩に勝つ――一之瀬亮に勝つ力だと、そう思えた。何故かはわからないけれど。
「――欲しい」
「うん」
待ってましたといわんばかりに、男はうなずいた。そして、意識がぼうっとしてきた長島の頭に、すっと右手をのせる。
「じゃあ、あげる。君の望むチカラ、君の能力」
そして男は、冷たく、綺麗に笑った。
【20060527 ブログ「黄昏は雨の日に」より】