――お前はどうしたい?亮
『どうしたいも何も、……どうすんだよ』
 ――お前は俺の主だぞ。お前が生まれた瞬間に、俺も生まれた。だからお前の判断に従う
『……俺に選択肢ねぇじゃん』
 ――まぁ、そうなるだろうな。俺はずっとお前とともにあることになるだろう
『しょうがねぇなぁ……じゃあ、今からお前、俺のダチな』




THE CHILDREN OF GODS.
―しろくろ。―



 0/別に喧嘩が好きなわけじゃない



 なんていうか、昔の青春漫画とかにありがちっぽいシーンだなぁなんてことを、真っ黒な髪の毛をかきあげ、一之瀬亮(イチノセリョウ)はのんびりと考えた。
「てめぇ一之瀬……ッ!!よくもやってくれたじゃねぇか!!」
 夕方の学校なのに、人はほとんどいない。大体、今日は日曜である。何故こんな日にわざわざ学校まで呼び出されたのだろう。
 無駄に広い体育館裏は、丁度職員室から死角になっているし、騒いだ所で今日は休みだから、人は来ないはずだ。
「つーかお前ら、弱すぎて相手になんねぇし。帰っていい?」
「……ッざけんな!!!」
 さっきまで転がっていた奴らも全員起き上がり、亮に向って拳を振り上げる。やれやれ、と息を吐き、亮はやすやすとそれをかわした。
 勢いに任せた拳によってバランスを崩したそいつの後頭部に、振り向きざまに回し蹴りを喰らわせる。二発目は腹を狙ったそれで、亮は低く腰を落とし、攻撃を流すと、アッパーを決めた。いつのまにか後ろに回り、けりかかってくるそいつには、今倒した奴を投げつけ、体当たりで吹っ飛ばした。
「弱ぇなぁ……そんな鈍さじゃ俺本気出せねぇよ」
「……!!」
 最後に残った一人は、倒れた三人を軽く見やると、にやりと口角を上げた。
「残念だったなぁ、一之瀬。最後に俺を残すなんて」
「あ?」
 そいつは――たしか隣のクラスの長島(ナガシマ)とかいうやつだ――右腕を振り上げると、人差し指を天へ向けた。目に見えない圧力が、長島のその指に集まっていくのを、亮は「視」た。
「死ねェェェエエッ!!!!」
 指がこちらへ向けられる。圧縮された空気のようなものが半透明の球になり、亮へと放たれた。
「……オイオイ、お前『神子(カミコ)』なのかよ……」
 亮は呟くと、手のひらをそれに向けて突き出した。

 次の瞬間、その球は亮の手にぶつかり、そして――消えた。

 まるで、最初から何事も無かったかのように。

「な――」
「『神子』って、案外いっぱいいんのな」
 長くため息をつくと、亮は長島の懐に飛び込んだ。トン、と軽く胸を押すと、相手は目を見開き、そして倒れる。
 倒れた長島を踏まないようにしながらバランスを正して、亮は誰かに話し掛けるように言った。
「なぁ、『シロ』。今の、他の記憶も消してねぇよな?」
 彼はしばらくじっとしてから、返ってきた答えに満足して、ゆっくりと伸びをした。
「そっか。なら、いいんだ」
 服の埃を落としてから、昔の青春漫画とかにありがちっぽいシーンのように、亮はその場から去っていった。








【20060527 ブログ「黄昏は雨の日に」より】